游築見出し明朝体の文字セット、さしあたって漢字の文字セットについてお話します。
通常、書体の新規開発といえば、まずもってJISの第1水準、第2水準は全て制作するのですが、そうなりますと漢字だけでも6,400字ほど制作する必要があります。従来の標準的なDTP書体の実装文字セットは、Adobe-Japan1-2を規範とするものでしたが、それですと78JIS字形やIBM外字なども用意することになり、漢字の総数は約7,000字となります。現在では、2000年のJIS改定(JIS X 0213)で大幅な字種拡張がなされ、漢字の数は10,000字を超えました。さらに、Adobe-Japan1-5という最新の文字セットは、JIS X 0213をカバーしている上に様々な外字が揃っていまして、漢字非漢字含めて20,316という膨大なキャラクターコレクション(イメージとしては活字箱)を築いています。はたしてこれだけの文字セットを一から作りはじめるとしたら、どれ位の時間が必要になるのでしょうか…。
全ての書体が20,000字必要だとは思えませんし、JIS X 0213を満たしていなければいけないとも思えません。Adobe-Japan1-5をさしあたってフルセットと位置づけるならば、書体の性格ごとに、様々なサブセットフォントがあってもいいのではないかと考えます。実際、仮名フォントである「游築初号ゴシックかな」は、ある意味、和文フォントの究極的なサブセットフォントだといえます。必要な文字種のみ用意されたフォントであれば、いくらかリリース次期も早められるでしょう。いたずらに制作時間をかけるよりも、速やかにユーザさまのもとに提供することが何よりも優先される、そんな性格を持った書体もあります。書体の質を落とすのでなければ、収容文字数を書体毎に最適化するのが一番の近道ではないかと考えています。
游築見出し明朝体は、このサブセットという可能性を考えるのにうってつけの書体です。まずなによりも、これは見出し用の書体なので、JISや、Adobe-Japan1-5といった大きな文字セットに、それほど拘らなくてもよさそうです。端的にいって、見出しを組むのに最低限必要な文字を用意すれば事足りそうだと考えられます。ではその最低限の文字セットはなにかというと、まず常用漢字1,945字と人名漢字285字を考えたのですが、それだけでは明らかに足らないことに気付きました。何しろ都道府県の全ての漢字が揃っているわけでないのですから。そこで次に考えたのは、JISの第1水準2,965字を全て揃えるという案と、2年ほど前に出された国語審議会の表外漢字字体表の印刷標準字体1,022字(以下、「表外漢字」と表記します)をサポートするという案です。
人名漢字の第2水準にまたがっている文字と、第1水準の全漢字を合計すると総数はほぼ3,000字。さらに「表外漢字」に対応させようとすれば、概算ですが、総数は3,600字前後になると考えられます。この書体の性格を考えると、やはり第1水準の例示字体も「表外漢字」も揃っていたほうがよさそうだと判断し、以下の文字種は全て制作することにしました。
1)JIS 第1水準の漢字2,965字
2)常用漢字 1945字(これは全て第1水準に含まれます)
3)人名漢字285字(一部は第1水準に含まれます)
4)「表外漢字」1,022字(一部は第1水準に含まれます)
これだけあれば見出しを組むための最低限の文字セットは十分満たしているのではないかと思います。
ところで、游築見出し明朝体のベースになっているのは、東京築地活版製造所の36ポイント明朝体です。参照している見本帳もかなりの年代ものでして、当然のことながら、国は國、霊は靈という正字形です。また、現代の書体には見られない字形差も多数見受けられます。当初から、この原寸彫刻時代の活字の持つ雰囲気を大切にしたいと考えていましたので、全ての制作文字種について見本帳にある正字体・旧字形(以下、「異体字」と表記します)も、原則として制作することにしました。ただし闇雲に制作していたのでは、埒があかないので、様々な資料をもとに、一般的に使われていたと思われる「異体字」のみの制作にとどめました。これらの「異体字」ならびに先述しました「表外漢字」はJIS内の文字とJIS外の文字があります。JIS外の文字については、アプリケーションの字形切り替え機能によって使えることになるでしょう。 結局、制作文字数は漢字だけで4,000文字を超えてしまいました。内訳は、JISの第1水準の漢字全部と、第1水準以外の人名漢字、表外漢字字体表の印刷標準字体、そしてこれらの異体字です。いずれ機会があれば、より具体的に収容文字種をお見せできるような資料を用意する予定です。