文游明朝体のデザインについて

文游明朝体のデザインの特徴を知っていただくために、解説記事を用意しました。

文游明朝体のデザインについて

『文游明朝体 R』は「時代をこえる普遍性を具えた造形美と可読性を標榜する日本の明朝体をつくる」をキーワードに、単行本や文庫などで文学文藝作品を組むことを目的に開発された明朝体です。

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日本における文字の発生の起源や歴史を背景に、文字固有の骨格を尊重した伝統的な字形が特徴です。漢字は漢字らしく、平仮名は平仮名らしく、片仮名は片仮名らしく、三者三様の対比により美しく可読性の高い組版を実現します。

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古典文学から現代文学まで組める汎用性を持ちながら、情緒豊かな組版表情を醸成する書体です。

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ラテンアルファベットは和欧混植のみならず、欧文単体で文学作品を組むことを想定した設計となっています。和文に従属する存在としてではなく、それが主体となって自立する存在たりうるものとすることを目標にしました。

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漢字は日本の近代活字書体の源流である明治・大正期の古典に立ち返り、本文用明朝体のあるべき姿を再考することで、その理想を追求しました。正方形の全角ボディーに捉われない、文字固有の骨格を尊重し変化に富んだ伝統的な字形が特徴です。

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引き締まったフトコロ、長く伸びやかなハライ、粘度が高い湾曲した点、しっかりとした強さを有するエレメント、そしてオフセット印刷で安定感のある黒みを担保する太い横画が特徴です。木版印刷用書体として成立した明朝体様式の漢字らしい堅牢なイメージとなっています。

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平仮名は仮名の美が完成を見た平安時代の古筆を元に構想し、連綿で綴られていた文字を明朝体の漢字に合わせながら正方形の中で定型化することを試みました。千年以上に及ぶ文字の歴史を背景に、明朝体の仮名としての典型美を標榜しました。女手とも呼ばれる仮名本来の、その優雅な印象が特徴です。

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片仮名はその起源とされる漢文読み下しに使われた楔形の訓点から構想しました。平仮名が漢字の文字全体を抽象化して生まれたとされる一方、片仮名は漢字の一部を切り取って成立したと云われます。その幾何学性や直線的な造形が片仮名らしさであると考えました。

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本来仮名が持っている線質や骨格の美しさを生かしながら、その一画一画から息遣いが感じられるものとすることを心懸けました。筆で書くことで自然に立ち現れる形を生かした有機的な字形が特徴です。

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文游明朝体の仮名は漢字に対して小振りな設計となっています。特に片仮名は古典的な金属活字に倣いより小さなサイズとしています。これにより組版にリズムが生まれ、長文本文組での可読性を高めることに繋がります。

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欧文の大文字はその起源とされる西暦二世紀初頭のトラヤヌス帝の碑文に代表されるローマンキャピタル体を元に構想しました。伝統的で字幅の変化に富んでいることが特徴です。堂々とした風格のある佇まいをしています。

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欧文の小文字はその源流であるヴェネチアンローマンを参照しました。カリグラフィーの平ペンによる筆致が色濃く残っており、有機的な印象です。手書きを模範とする設計思想は、仮名のポリシーに通底するものです。

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文游明朝体の欧文は小文字の高さであるエックスハイトが低めに設定されており、アセンダーやディセンダーが長く伸びやかな印象です。数字はオールドスタイル字形を採用しました。

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文字の発生以来数千年に渡り、人類は書くという行為を営々と続けてきました。その長い歴史の中で生み出された偉大な遺産に範を求めることで、理想的な文字のあり方に近づくことができると考えました。

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文游明朝体が、みなさまのより良い読書体験の一助となれば幸いです。ぜひ様々なシーンでご利用ください。

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