游明朝体五号かなのデザインについて、より深く知っていただくための記事です。SCREEN GAから発売されている游築五号仮名との違いをまとめてあります。

游明朝体五号かなと游築五号仮名の同じところ

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游明朝体五号かな(上)と游築五号仮名(下)は、大きさ、太さ、骨格などが違います。こうした違いについては下記をご覧いただくとして、ここでは游明朝体五号かなと游築五号仮名の同じところについて触れておきます。

 

まず、どちらも同じ金属活字をベースにしています。東京築地活版製造所の後期五号と呼ばれる活字です。そして、どちらも字游工房がデザインを手がけています。もっといえば同じデザイナが手がけています。

 

以上のふたつが游明朝体五号かなと游築五号仮名の同じところです。形や名前がそっくりなのは、主にこのふたつの同じところが理由です。同じところ、違うところを知っていただいて、お客さまの書体の選択の一助になるのがここの記事の目的です。

大きさの違いについて

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上が游明朝体漢字+游明朝体五号かな、下はヒラギノ明朝体漢字+游築五号仮名です。游明朝体五号かなが、游築五号仮名よりもすこし大きいこと、そして游明朝体漢字の方が、ヒラギノ漢字よりもすこし小さいことがわかります。

 

この漢字とかなの大きさの関係は、文章をならべた時の表情に大きくかかわります。漢字とかなが寄りそうような関係を求めるのか、あるいは漢字とかなで一線を引くような関係を求めるのか、書体を選ぶときの楽しみのひとつではないでしょうか。

太さの違いについて

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游明朝体五号かなが漢字フォントとして想定している游明朝体と、游築五号仮名が漢字フォントとして想定しているヒラギノ明朝体は、そもそも太さが違います。ですから当然のことではありますが、游明朝体五号かなと游築五号仮名は太さが違います。

 

上の画像では、細い順に游明朝体五号かなと游築五号仮名をならべました。細い方から、游明朝体五号かなL、游築五号仮名W2、游明朝体五号かなR、游築五号仮名W3、游明朝体五号かなM(改行)游築五号仮名W4、游明朝体五号かなD、游築五号仮名W5、游築五号仮名W6です。グレーになっているのが游築五号仮名です。

 

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合わせる漢字に由来する太さの違いとは別に、游明朝体五号かなと游築五号仮名の太さには違いがあります。左の游明朝体五号かなの方が、細いところ(青い矢印の部分)が太いのです。

 

「の」がわかりやすいので例示しましたが、他のかなでも同様です。細いことろを太くするとメリハリはなくなりますが、やさしい穏やかな印象になります。

先端の書き方の違いについて

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グレーが游築五号仮名で、すこし見えている黒い方が游明朝体五号かなです。ご覧のように游明朝体五号かなの方は先端が丸く書かれています。この書き方の違いは、游明朝体漢字の先端が丸く書かれていることによります。

骨格の違いについて

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游明朝体五号かなと游築五号かなでは骨格も違います。上が游明朝体五号かな、下が游築五号仮名です。わかりやすいものを例示しましたが、すべてかなの骨格が変更されています。

 

なぜ骨格まで変更したのかは「デザイナに聞きました」で触れられています。

デザイナに聞きました

游明朝体五号かなと游築五号仮名を手がけた字游工房のデザイナ鳥海修に質問しています。

 

Q : 游明朝体五号かなと游築五号仮名の大きさの違いについて、意図したことを教えてください。
A : 游明朝体と游明朝体五号かなの組み合わせは、ヒラギノ明朝体と游築五号仮名の関係に対して、漢字と仮名の大きさの差が小さくなっています。こうすることでパラパラ感が減り、一行一行がはっきりと見えてきます。したがってやや狭い行間でも読みやすい印象になると思います。
このことからヒラギノ明朝体と游築五号仮名の組み合わせは漢字が大きく仮名が小さいクラシックな印象に対して、游明朝体と游明朝体五号かなの組み合わせは、今風の明るい印象になっていると思います。

 

Q : 游明朝体五号かなと游築五号仮名の太さの違いについて、意図したことを教えてください。

A : 游明朝体五号かなの太さは、游明朝体L、R、M、Dの各ウエイトに合わせたので、当然ヒラギノ明朝体に合わせた游築五仮名とは異なります。また、筆法の違いが太さの取り方に影響を与えています。游築五号仮名は太、細のコントラストが強く、シャープでありながら、クラシックというイメージ(「て」が象徴的)になっていますが、游明朝体五号かなは游明朝体の漢字の優しいイメージに合わせ、細い部分が少し太めに処理され、穏やかなイメージになっていると思います。

 

Q : 游明朝体五号かなと游築五号仮名の骨格の違いについて、意図したことを教えてください。

A : 游築五号仮名は、個々の文字が仮想ボディの中で垂直に屹立し、完結するような作り方をしているのに対して、游明朝体五号かなはオリジナル(築地後期五号)に比較的近づけ、やや右上がりの骨格にしました。これによって文字が次の文字へと自然に続いていくような感じになる思います。

 

Q : 游明朝体五号かなと游築五号仮名はどんな風に使い分けるとよいですか?

A : 游築五号仮名はヒラギノ明朝体と組み合わせることによって、漢字が大きく仮名が小さいという、非常にクラシックな印象になります。これは長文に適した特性を持っているので、小説などを組む書籍用におすすめです。雑誌に使う場合はややパラパラ感があるので、行間を広めにとる必要があります。
游明朝体五号かなは、漢字とかなの大きさの差が少なく、行が見えやすいことから雑誌の本文に最適だと思います。また両方とも豊かな表情を持っているので見出し書体としても適しています。

 

Q : 游明朝体五号かなと、游明朝体の標準のかなはどんな風に使い分けるとよいですか?

A : 標準かなは長文を読ませることを念頭において作りました。飽きずに普通に読める書体をめざして、大きさは小さく、そして形はシンプルにつくりました。したがって、書籍や文庫の縦組がベストだと考えています。
游明朝体五号かなは、もっとゆったりしていて表情が豊かです。強いて言えば日本的文科系姿態。雑誌の本文はもちろん、その豊かな表情を生かした見出しまで幅広く使えると思います。