書体設計家インタビュー
文字巨人
文字の巨人
中村征宏さん
インタビュー・構成=鳥海明子・字游工房

その3
特太ゴシックよりもっと太い文字を!……ゴナ

「写研さんから、あの当時あった『石井特太角ゴシック』よりも、もっと太い角ゴシックを作って欲しいという話しがあって、『ゴナU』の試作をしました。まずは、ひらがな五字、カタカナ五字、漢字一二字の計二二字くらいだったと思います」

上:石井特太ゴシック 下:ゴナU
上:石井特太角ゴシック 下:ゴナU
同一サイズでべた組

「僕が書ける文字制作のペースとしては、一日に一六字から二〇字ですね。一字毎には仕上げませんが、作業はきょうは横線ばっかり書くとか、次は縦線ばっかり書くとか、また曲線ばかりとか、『ゴナ』の場合はロットリングを使わずにすべて、みぞ引きとフリーハンドで書きました。写研では石井特太ゴシックが当時あった一番太い文字だと思うけど、ゴナはその倍近くありますからね。太さもこれ以上は無理ですね。こういう太い字を書くときは、いきなり太く書くわけじゃなくて、最初は七〇パーセント程度の細めに書いてから太めますね。一画一画見て、ここは太めて、ここは細めてなどの判断と調節をして形を整えていきます」


ゴナUの「書」は、たてよこ合わせて
12種類の太さの画で構成されている

「ゴナの発想ですが、以前ポスターを見たときにアルファベットのサンセリフと普通の和文ゴシックを組んだものを見たときに印象が違うことが気になっていて。和文ゴシックの横線は左右が、縦線は上下が開いたり、少し打ち込みの感じを持たせた形をしているのに対して、アルファベットの『H』の線は完全な長方形ですよね。だからあの線を使ったほうがアルフべットと混植したとき、これまでのものよりは違和感が少なくなるんじゃないかと思っていました。それが線質を決めた理由です。
 それから直線的な線は雰囲気はないかもしれないけど、シャープでモダンになるかなぁというのもありました。アルファベットの感覚を持ち合わせたかったですね。ゴナは毛筆から卒業したというか、筆を引きずらないで別のものにしたということを評価していただけると非常に嬉しいですね(笑)」

アルファベットとの混植の印象の違い
アルファベットとの混植の印象の違い
上:石井特太角ゴシック 下:ゴナH

「墨入れには、普通のポスターカラーでなく、アニメカラーを使っています。アニメカラーを知るまではポスターカラーとインクを混ぜたりして使っていました。ところが、鉛筆の下書きに消しゴムをかけないといけない。ポスターカラーだと消しゴムをかけると黒が剥がれてしまうんです。消しゴムをかけて黒が剥がれると、また塗り直さないといけないでしょ。それに用紙に印刷してあるメモリの青い線に油っけがあるからはじくんですよ。アニメラーを使ってからは剥げないし、黒色もはじかない。これ最高、と思いましたね。おかげで非常にきれいに黒ベタが塗れるようになりました。
 文字を作るときは、どうしても太さが狂ってきます。そのため特に細線の文字の場合は、太さの基準を作って比べながら作業します。そうしないと、あとで膨大な直しになりますから。その基準も字画の少ないもの、中間のもの、多いものの三種類程度にします。しかし、最終的には字の成り立ちによって変わりますから、視覚で調整していきます。
 いったん納品すると、写研の橋本さんのチェックがはいり、写研からは必ず一回戻ってきます。納めてから二カ月後くらいにね。『文字の巨人』第一回登場の橋本和夫さんには、ナールからそれ以後すべてのタイプフェイスディレクターをしていただいています。
 ゴナの場合は、五〇級でテスト印字したものを参考に原字修整を行いました。小さくするとバランスがよくわかるためです。写研さんからの修整指示に加え、自分で直しをいれる部分もあります。その当時はすべて手作業ですから、五八〇〇文字のバランス、太さ、部分の修整に相当の時間がかかりますね。ゴナについては、三、四カ月は修整期間をとりました。それでもナールよりはまだ早いですけどね」

ゴナの手書き原稿
ゴナの手書き原稿(80mm)

「僕は、ナールとゴナとどっちか選べといわれたら、ゴナのほうが好きですね。この前、女子美術大学にいったとき、先生に『ナールもゴナも親しみやすい字ですね』と言われて、自分では分からないのでそうかなぁと思いました。知り合いのペンションのオーナーさんはゴナUを『うるさくない字だ』と言っていました。今田欣一さんは自著『文字の星屑』のなかで『主張はないが、存在感がある』と書いてくださっています。そういえばライオン看板店の親父さんの文字も、あまり癖はなくバランスのとれた文字だったですね。僕も、一六から一八歳の感覚的には一番吸収できるときだったから、その字形の影響を受けたのだと思いますね」

space

マガ|もくじ文字の巨人萬歩計文字リンク参考資料の棚

Copyright (C) 2005 JIYUKOBO Ltd.